ドメーヌ・ジェラール・シュレール・エ・フィス

Domaine Gérard Schueller et Fils

ドメーヌ・ジェラール・シュレール・エ・フィス
ユスラン・レ・シャトー,アルザス,フランス

シュレール家は、16世紀ごろから、代々ブドウ栽培をしてきました。1958年までは、ブドウを販売していましたが、ジェラール氏の代から自家醸造を始めました。1982年からは、息子のブルーノ氏が参加し、現在、栽培・醸造を含め、経営全般を担っています。

ドメーヌのある Husseren Les Chateaux (ユスラン・レ・シャトー)村は、コールマールから南へ車で15分ほど行った、アルザスの中でも比較的標高が高い場所に位置します。ヴォージュ山脈から続くなだらかな丘陵地帯の、日当たりのいい、東~南東向きの斜面に、シュレールの畑があります。
所有する畑は7ha。標高330~340メートルの35区画にわたります。大昔から受け継がれてきた有機農法を当然のように実践し、認証などは取得せず、生態系を守りながら栽培しています。春先には鹿が新芽を食べにくるそうです。

ブドウの樹は平均樹齢が30年。Guyot(ギュイヨ、垣根仕立て)で仕立てられ、1haに5000本ほど植えられています。牛糞から作った有機肥料を6~7年に一度に抑えて使い、やせた土壌でブドウ樹のバランスを保ちます。土が肥えている時には雑草を生やし、競わせながら勢いの調節をします。収穫は、完全に熟しきるのを待って、すべて手作業。ある年は10月丸々収穫にかかったそうです。丁寧に選別し、大きな漉し器に入れて手でもむと、粒だけが下に落ちて茎は上に残ります。天然酵母を用いた発酵は自然に任せてとてもゆっくり進みます。温度調節が容易なステンレスタンクでなく、全ての醸造過程を木樽で行います。「もし僕が造り急ぐ造り手ならステンレスタンクを採用するけどね」。澱と一緒に熟成。キュヴェによってはバリックの新樽を使用します。清澄・濾過は殆ど行いません。

私が初めて出会ったヴァン・ナチュールの中に、シュレールのワインがありました。
2004年のパリ、情報を集めて、ドイツでは絶対に買えないヴァン・ナチュールを手に入れようと、ラヴィニア(LAVINIA)という大きなワインショップへ行き、シュレールのリースリング・キュベ・パルティキュレールを見つけました。それ以外には、ティエリー・ピュズラやマルセル・ラピエールのワインなどを買って帰ったのを覚えています。その時、日本人の女性の店員さんが、シュレールに行った時のことを話してくれました。非常に素朴で優しい親子だったという言葉が印象に残っていて、アルザスならフランクフルトから車で2,3時間で行けるし、ワイン街道を走った経験はあるので、今度是非行ってみようと思いました。

ところが、家に帰ってリースリングを飲もうと抜栓してみると、途端に色が褐色に変化し、味もおよそワインの味とは程遠いものになっていました。パリに行けるのは今度いつになるかわからないし、悔しい思いがよぎる中で、ふと、これはシュレールに直接行って本当のワインの味を確かめた方がいいと思いつきました。

年明けの1月初めにドメーヌに電話して、ドイツ語で話せるかときいたら、もちろんと答えてくれたのがブルーノでした。今から行ってもいいかというと、「じゃあ来いよ」ということになり、南に車を走らせました。
ユスラン村に着く手前、この後何度も登ることになる、両側にワイン畑が広がる壮大な風景の坂道を登って、村の教会の真ん前にあるドメーヌに着きました。中に入るとブルーノが出迎えてくれました。そして同時に紹介されたのが鏡健二郎さんでした。ここで日本人に出会うとは思ってもいなくて驚きました。それから、ブルーノと並んで鏡さんとのお付き合いも始まりました。彼はその後5年ぐらいシュレールで働いていました。

さて、ドメーヌで、例のリースリングと同じキュベを試飲して、度肝を抜かれました。何と瑞々しい果実味を湛えた黄金色の液体だろう。今まで飲んできたどのワインとも違う複雑さに、息をのみました。それでいて人を寄せ付けない冷たさはなく、どこか素朴で懐かしいような味わいにほっとしました。
その後、他のキュベを次々に試飲して、感動の連続でした。沢山ワインを購入して、再会を約し、あの坂を下りました。

それから何度ユスラン村を訪ねたかは、数えきれません。
時にブルーノの両親ジェラールとクローディーヌの経営する宿に泊めてもらって、クローディーヌの作るアルザス料理に舌鼓を打ちながら、シュレールの数々のワインを開けてもらって、ブルーノ、ジェラール、鏡さんたちと語り合う、楽しい時間がありました。

ブルーノやジャン‐ピエール・フリック、クリスティアン・ビネール、パトリック・メイエー達が2年に一回開くサロン・ド・ヴァン・リブレでも、ブルーノは自分のブースにはほとんどいなくて、彼のとっておきのワインのマグナム瓶を抱えてうろうろしているのが常です。そして、彼を捕まえて飲むそれらのワインは、素晴らしい一期一会のものなのです。