ジュラ地方 /フランス

Jura

ジュラ地方 /フランス

ジュラ県は、フランス東部、スイスにまたがるジュラ山脈の西麓の、南北に長い県です。
ジュラという名は、『森』『原生林』または『山地の森』を意味する、ラテン語のユリア(juria)に由来すると言われています。この地方をドライブすると、その名の通り、斜面には森と牧草地が広がり、白い石造りの家々の集落が点在する、絵のような風景が広がります。映画の「ジュラシック・パークJurassic park」の題名は、恐竜が跋扈していた地質学的な年代を表すジュラ紀に因みますが、ジュラ紀という語は、1億数千年前の恐竜の時代の地層が隆起して地表に出ているのが見られる、この地方の名からとられたのです。

この地方では昔から牧畜が盛んで、特に牛がたくさん飼育されています。その豊富な牛乳から、たくさんのチーズが造られることも昔から知られています。現在フランスで最も人気があると言われる「コンテ(Comte)」をはじめ、ワインとの相性抜群の「モルビエ(Morbier)」、秋から冬の時期にかけてフランス人が探し求める、熟成するとどろどろに流れてしまいそうな「モンドール(Mont d'Or)」等々、グルメの間ではフランスでも屈指の名産地として知られています。

一方、牧畜と並んで、ジュラ山脈の麓の斜面で葡萄が栽培されワインが造られてきたことは、地元以外ではあまり知られてきませんでした。このような中で、流行からは隔絶されたように、独自のワインが伝統的に造り続けられてきました。栽培されているブドウ品種も、シャルドネやビノ・ノワールもありますが、白のサヴァニャン、赤のプールサールやトゥルソーといった、ここにしかない地元品種が今でも大切にされています。

そのジュラ伝統のワインの中でも、ワイン通の間で昔から珍重されてきたのが「ヴァン・ジョーヌ(黄色いワイン)」です。 アルコール発酵を終えたサヴァニャン種から造られた白ワインを、樽に入れて、蒸発による目減り分を一切(意図的に)補填せずに、6年以上も、静かに熟成させたものだけが、ヴァン・ジョーヌに認められます。熟成課程でワインは少しづつ蒸発し、樽内に空気の隙間ができますが、ワインの表面には酵母の膜が生まれ、この膜がワインを急激な酸化から保護します。
出来上がったワインは、黄色から琥珀色の深みのある色調で、ナッツ、ハチミツ、カレー系スパイスなどの香りが豊かな、シェリー酒のように良い意味での酸化(酸化熟成)の風味を持つ、ドライながらも深みのある個性的な味わいのワインに仕上がります。私自身も、「ヴァン・ジョーヌ」の深い味わいを知って初めて、酸化熟成したワインを評価できるようになりました。しかし、「ヴァン・ジョーヌ」に限らず、「ゆっくりと熟成させる」ということを、この地方のワインの造り手達は大切にしてきたように思います。

このような個性的なジュラのワインの造り手の中に、「自然な造り」をする人が出てくることは、必然だったと思います。ピエール・オヴェルノワさんは、ジュラ地方アルボワ村の近郊で、早くから、自然に畏敬を感じながら人為をほとんど排して、ワインを醸し続けてきました。彼は今では、フランス中のヴァン・ナチュールの造り手達から、神様のように尊敬され、慕われています。
私自身も、ジュラ地方を初めて訪ねたのは、オヴェルノワさんのワインを求めてのことでした。その時には彼自身には会えなかったのですが、この地方の素朴な風景に安らぎを感じ、彼のワインを飲んで、その滋味あふれる味わいに魅了されました。後に彼の畑の収穫を手伝う機会に恵まれましたが、そこで出会った素顔のピエールさんは「神様」とは程遠く、素朴で優しい好爺でした。現在はワイン造りを弟子のウイヨンさんに譲って、畑の傍らのロゴハウスで鶏を飼い、天然酵母でパンを焼く生活を続けています。

ジュラ地方は今、若手のヴァン・ナチュールの造り手が続々と現れ、フランスでも屈指の自然派ワインのメッカとなりつつあります。

ジュラワインの共通の特徴として私自身が感じるのは、ミネラルをはじめとする土壌由来の成分のベースが、ワインの味わいにコクと深みを与えていることです。それは、やはり、一億年以上前のジュラ紀の土壌が、地表や地中の浅い部分に存在することからくるものだろうと想像できます。ワインの専門家の間でも、ジュラの土地のポテンシャルの高さは、最近とみに評価されるようになってきました。さらに、この土地に豊富な硫化物系の成分を葡萄樹が存分に吸い上げるために、根が地中に垂直に伸びるよう力を注ぐ自然農法は、最適なものだと思います。