Apr.2019
Weingut Harteneck
ハルテネック醸造所

Apr.2019
ドイツ・バーデン地方
Weingut Harteneck ハルテネック醸造所

4月中旬、イースター前の少し肌寒い気候の一日、ライン川を挟んだ東西2軒の生産者を訪問しました。

ドイツのバーデン地方の中心都市カールスルーエの南から、ライン川東岸、スイスのバーゼルまでを南北に連なる山地シュヴァルツバルト(黒い森)に、東側を区切られた地域は、バーデン・ワインの主要産地です。また、ライン川の西、やはり南北にのびるボージュ山脈までの地は、言わずと知れたフランスのアルザス地方です。国境のライン川を挟んで東のドイツ側、西のフランス側は、双方を山地によって区切られた、南北百数十キロにわたって細長く広がる、相似対称的な地形になっています。

この両方の地全体を、地理学では「ライン地溝帯」と呼んでいます。地溝とは、土地が陥落して落ち込んだ場所をさします。

実は、太古の昔、ドイツのシュヴァルツバルトとフランスのボージュは一体で、一つの山地だったのです。ある時、地殻変動によって頂上付近が陥落して南北に溝ができ、やがてそこにライン川が流れるようになり、今のような地形が形成されたのです。何千万年という気の遠くなるような地球の歴史です。
写真(上)はドイツのシュヴァルツバルト側から眺めたライン地溝帯の眺めです。背景はフランスのボージュ山脈です。

今回は、午前中にラインの東側のバーデン地方シュリーンゲン村Schliengenにトーマス・ハルテネックさんのワイナリー、午後にライン川を渡ってアルザスはプファッフェンハイム村のジャン・ピエール・フリックさんを訪ねました。今日は、ハルテネックさんのワイナリーのレポートです。

ハルテネックさんとは3月にケルンの試飲会で初めてお会いして、ワインを試飲してインスピレーションを感じ、一度訪ねたいと思いました。

ハルテネックさんはプファルツ地方のワイン農家に生まれましたが、家は兄弟が継いだので、スイスに移住してワイナリーで働いて経験を積み、20年ほど前、ドイツに帰ってこのシュリーンゲンに自分のワイナリーを設立しました。
設立当初からビオディナミ(バイオダイナミックス)の農法で葡萄を栽培し、デメテルの認証も取得しました。以来、長くビオのワイナリーとしての評価を高めてきました。そして、3年前から一部のワインを亜硫酸無添加のヴァン・ナチュールのスタイルに転換しました。

彼のワインを初めて試飲して印象に残ったのは、ミネラル感の長く深い持続、とでも表現したいものです。話を聞いていくうちに合点したのは、この印象は長年ビオディナミで造ってきた畑と葡萄樹から来るものではないかということでした。そのことを畑を見て確かめたいと思いました。

ドイツの西南端、大学都市フライブルクの南からスイス国境までシュヴァルツバルトの山麓に小高い丘が広がる地方マルクグレフラーラントMarkgräflerlandは、西はフランス、南はスイスと国境を接しています。年間の日照時間が2000時間に達するというドイツで最も温暖な土地と言われる気候は、ワイン造りにも適しています。ハルテネックさんの約10haの畑は丘の斜面や頂上に広がっています。

土壌は、ミネラル豊富なレスLössと呼ばれる黄土や粘土と砂等が入り混じったローム層が表面を覆っていて、地中には石灰質の岩がある所が点在しているとのことです。特に石灰土壌はジュラ紀のものが多く特徴的です。ハルテネックさんはその土壌からできるワインにJurakalkジュラカルクという名をつけているほどです。実はジュラ紀の石灰岩はライン対岸のフランスのボージュ山麓でも多く見られ、太古の歴史を垣間見る思いがします。

畑の様子ですが、どこも土が柔らかく、様々な花やハーブ類が自生しています。土中には微生物が生き生きと息づいていて、葡萄の根も地中深い伸びているので、丘の頂上の表土に水分が少ないところでも葡萄樹はいきいきとしています。
ハルテネックさんは畝の間の植生を3,4年おきに耕作して転換しています。そうすることで土中の微生物、特に酵母の働きを活性化させて亜硫酸無添加のヴァン・ナチュールの醸造ができる環境を整えているということです。亜硫酸を入れるビオワインからヴァン・ナチュールへの転換は醸造過程の改良だけでできるのかと思っていたのですが、畑の改良も伴う大変な努力が必要なことを初めて知りました。

彼は将来的には亜硫酸無添加のヴァン・ナチュールへの転換をより進めていきたいと話していましたが、問題はまだまだ活性化しないドイツの市場の状況だといいます。ドイツ人の間にはビオディナミのワインはある程度は受け入れられていますが、亜硫酸無添加のワインの味わいには未だに慣れない向きが多いということです。

ハルテネックさんのワインの品種構成は土地柄を反映して、ドイツではグートエーデルと言われるシャスラ、オーセロワ、そして、ピノ・グリ、ピノ・ノワール等南系で、ドイツの代表品種のリースリングは気候が温暖過ぎて退屈な味わいのものにしかならないので植えていません。

試飲は亜硫酸を添加したものと無添加のものを飲み比べたりして進めました。添加と言っても60㎎/lとドイツの造り手にしたら超微量であるにも関わらず、やはり、無添加のものの方がミネラルの伸び、アフターテイストの綺麗さ、長さがはっきりしていて抜群にいいと感じました。この差にハルテネックさんの畑での努力が実っているとも思いました。